去年はいい年になるだろう 山本弘

去年はいい年になるだろう

去年はいい年になるだろう

魂の小説である。気に入った。

が、エンタメとしては最悪の出来。



ほぼすべての著作を読んでいる山本弘ファンの自分としては、このエンタメ性のなさはちょっと許せない。


内輪ネタが多すぎて、一般の読者はドン引きするレベル。


しかも私小説風の作りだから、最後の数十ページに至るまでは、ほとんど波乱がない。

最後にちょっとだけあるセンス・オブ・ワンダーもショボイ。






多分、山本弘のファンじゃなかったら途中で読むのをやめていただろう。

エンタメという点に関してはゴミレベル。



が、魂はものすごく入っている。

本編のテーマは多分「愛」だろう。


ありとあらゆるところで山本弘の「妻や娘に対する愛」が描かれまくっている。



それも、どう考えても山本弘を知っている人が読んだら「おいおい、いい年したオッサンが……」ってなるレベルで。

山本弘は知っている人は知ってるかもしれないが、はっきり言って「キモいSFオタ」の典型とも言える。多分、一般人受けするような容姿や雰囲気ではない。


好きなSFや怪獣について話す山本先生の姿は、(俺は好きだけど)あまり世間的には好ましくないんだろう。



そんなオッサンが、全編通して書いたのが「妻と娘への愛」。しかも愛するSF小説としてそれを発表。

愛するもの(妻と娘)を愛するもの(SF小説)で表現したと言える。


はっきり言って恥ずかしい。が、よくやってくれた。



これ読んだ、若きキモオタ達は「いい年したオッサンが、こんな恥ずかしくてかっこいい事やってる!」と思って勇気づけられるだろうし。(俺は勇気づけられた)


中年のオッサンも「かつての情熱が蘇る!」って思うこと受け合い。



星雲賞受賞したのも、多分、濃ゆいSFファンの心を揺さぶったからだと思う。




何か偏愛するものがある人は、山本弘という恥ずかしくもかっこいいオッサンを知るために、是非読んでみて下さい。