IBM奇跡のワトソンプロジェクト 人工知能はクイズ王の夢を見る。

IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる

IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる


人間相手に人工知能のワトソン君が、クイズ番組で戦う! さて、どうなるワトソン君! 

目次

イントロダクション 「生きた言葉を理解するコンピュータが」問いかけるもの

第一章 発端 チェスコンピューター、『ディープブルー』の次は?

第二章 『ジョパディ』に挑む 最強の舞台、最強の人間チャンピオン

第三章 開発プロジェクト、発足

第四章 人工知能を教育する

第五章 ワトソンと起業ブランディング

第六章 ワトソン、人間と戦う

第七章 人工知能研究の現場とゆくえ

第八章 科学とエンタテイメントのはざまで ワトソンの「指」問題

第九章 ワトソンの就職活動 実社会への応用

第十章 コンピューターはゲーム戦略を立てる

第十一章 対戦 2011年2月16日、歴史が変わった。


この一冊は、つまりこういうことじゃないのか。

今の段階では、コンピューターにものを考えさせるよりは、まだ線型探索のほうが強い。






ワトソンが捨てたもの。それは「考えること」。


ワトソンは本当の意味で人工知能と言えるのかは微妙だ。

人間と同じく「概念」を理解し、そこから類推して答えを導き出す思考プロセスをワトソンはもたない。

その意見でワトソンは人工知能ではないかもしれない。



が、ワトソンは「婉曲」や「比喩」を多用するヒントから答えを導きだすクイズ番組の「ジョパディ」で人間に勝利した。





これは驚くべきことだ。

比喩や、婉曲を使わない、キーワードを羅列するだけのクイズ形式なら、コンピューターは大得意だ。


「アニメ、あんぱん、正義の味方、やなせたかし」というキーワードをデータベースに問い合わせて最もマッチする解答を出せば良いだけ。

「アニメ、あんぱん、正義の味方、やなせたかし」という概念について理解する必要はない。キーワードを単なる文字の羅列とみなし、正規表現によるマッチングで処理すればだいたいOK.「アンパンマン」とう答えは簡単に出てくる。





ところがこういうのは難しい。
「大人気のポップ歌手で、2000年には百代目『ミルク飲んだ?』モデルとして3歳児と、18歳時の姿で登場しました」。


答えはブリトニースピアーズ。

ワトソンが出した答えは「聖なる糞」。


人間なら少なくとも、「ポップ歌手の名前」を答えるのであろうことは類推できる。が、ワトソンにはそれができない。


「ポップ歌手」について調べ上げ、「2000年」というキーワードについて調べあげ、「ミルクのんだ?」について調べあげる。問題文をこまかく分解して、キーワードについて調べあげる。
各キーワードのうち、データベースにあり、マッチ率が高そうなものを選び出し、最終的な答えを導き出す。

だから、答えがポップ歌手に全然関係ないものになることもよくある。これはワトソンが「概念」を理解していないからおこる。





で、この難問にワトソン開発グループはどう答えたか。考えられる方法は2つある。


1.人間が「概念」を理解するのと同じ方法をワトソンに組み込むこと。


2.概念を理解するのをやめる。純粋に統計学的なアプローチや、機械学習など、すでに確立している技術を徹底的に利用すること。




チームは2を選択した。

で、もちろんその部分部分に使われているアルゴリズムは難しいし、大変な事もたくさんあったけれども。


やってることは、CPUのパワーにもの言わす線形探索となんら変わらない。


問題文を分解して、データベースと照合。過去の統計モデルと比較して、解答の自信度を出して、最終的な答えをだす。


基本的にはたったこれだけ。



が、この単純な作業を磨きに磨き抜くと(そして、この磨き抜く作業が非常に困難なのだが)、「人間のチャンピオン」を凌駕する力を発揮できる。












これは本当すごいことだし、『ディープブルー』の時より「自然言語」を扱ったという意味で格段の進歩なんだろうけど、まだまだ「概念」を理解できるコンピューターは先の話なのかと思うと少し残念だ。



でも、読んでるうちはハラハラしっぱなし、興奮しまくりのサイエンスノンフィクションなのは間違いないのでオススメ! 


あと、IBMの開発手法がビジネス的に面白いのではないでしょうか。ビジネスマンにもオススメ。